(前回の続き)

 

※前編はこちら
 http://lesela.com/?p=1263

 

「すぐ動かないとやばい」

と考えて、すぐに駆けつけた悪徳業者のアジト。

それは上野駅から少し離れたビジネス街にある、雑居ビルにあった。

オリエンタルゴールド株式会社(仮称)

 

ドアは、クリーム色の鉄製だった。

殺風景な入り口だった。

いよいよ、ドアを叩く。

コン、コン。

しかし、すぐには出てこない。

 

もう一度、少し強めにドアを叩く。

ドン、ドン!

ようやく、人の気配がした。

解錠する音がして、ドアが開いた。

しかし、半開きである。

若い男が顔だけ開いたところから出してきた。

年齢は30歳前後か。

明るめのスーツを来ている。ネクタイはしていない。

太い黒縁のメガネをかけていて、頭髪はボサボサ。

明らかに下っ端だ。

 

「どちら様でしょうか・・・」

突然のアポ無し訪問に、少し驚いている。

あるいは、警察が来たのではないかと怯えているのか。

「大竹と申します。山田さん(仮名)の件です。」

「・・・・・」

内心では慌てているようだ。

 

「どのようなご用件でしょうか」

「山田さんの取引について、お聞きしたいことがあります。

担当者の片山さん(仮名)はいらっしゃいますか」

「・・・・・」

どうしたらいいのか、分からないらしい。

 

「少々お待ちください」

彼はドアを閉めて、他の人に相談に行ったようだ。

わざわざ鍵をかけていった。

半ドアの状態でさりげなく中を覗いてみたが、

よく見えなかった。

 

1分程して、別の男性が出てきた。

今度も半ドアで、半身の状態だ。

40歳前後。痩せ型だが、身長が高い。185センチ位あろうか。

わたしは173センチなので、それだけで威圧感がある。

 

「申し訳ありませんが、担当者がいないので、

お帰りください。担当者が戻りましたら、連絡させます」

担当者は本当にいないのだろうか。

いても、居留守を使って、追い返すだろう。

そのまま帰っては、意味がない。

「あなたのお名前は?」

「わたしは営業部長の坂本(仮名)です」

坂本。坂本といえば、担当の片山の上司だ。

山田さんが名刺を持っていた。

「担当者の方じゃなくても結構です。

営業部長のあなたから、お聞きしたいことがある。

中に入れてください」

「申し訳ありませんが、お帰りください」

そういって、彼はドアを閉めようとした。

 

まずい。

このままでは中に入れなくなる。

わたしは、とっさに足を伸ばして、

ドアが閉まるのを防いだ。

そして、ドアを力いっぱい開けようとした。

坂本の不意をついたのか、ドアは一旦、全開になった。

 

ところがである。

中が全く見えない。

なんとドアのすぐ奥に、さらにもうひとつのドアがあったのだ。

二重扉になっている。

手前のドアは、もともとのビルのドアだが、

中のドアはこの業者がわざわざ設置したものだ。

中が見えないようにしているのだ。

驚きである。

用心深い。

 

とにかく、私は、中に入ろうとした。

坂本が叫ぶ。

「なんですか。やめてください。入らないでください」

「いや。話があります。中に入れてください」

「困ります。お帰りください」

わたしは、力を振り絞って、ドアの内側に入ろうとした。

しかし、坂本も私の身体を掴んで抑えて、それを防ごうとした。

押し相撲のような、いや、

取っ組み合いのケンカをしているような状態になった。

 

「中に入れろ」

「帰れ」

言葉もだんだん荒っぽくなる。

坂本のほうが身体が大きいので、押され気味である。

 

こうなったら正当防衛だ。

わたしは、手で坂本を小突き、

足で坂本を蹴りあげたりした。

坂本を押し返した。

 

しかし・・・

そうこうしているうちに、騒いでいることに気づいたのであろう。

最初に出てきた男も再び現れた。

そして、坂本の加勢に入った。

男2人がかりで防がれては、さすがにだめだった。

自分の身体を半分位までドアの内側に入れていたが、

徐々に押し戻され、

とうとうドアから完全に離されてしまった。

 

諦めざるを得なかった。

わたしも、坂本も、ゼイゼイ言いながら、汗だくの状態だった。

「お帰りください」

坂本はそういってドアを閉めた。

 

強行突破は達成できなかった。

残念・・・・・

 

おそらく、このドアの内側では、

たくさんの人から集めたお金を管理しているのだろう。

騙すための資料を作っているのだろう。

その現場に入り込めなかったのは残念だった。

 

こうなったら、裁判手続だ。

やるのは仮差押。

通常訴訟で返金や損害賠償を請求しても、

判決を得られるまでに逃げられてしまう危険が高い。

今のうちに仮差押をしておけば、資産を確保できるかもしれない。

今回入れなかった事務所の中にも入れる。

中の様子を見ることができる。

 

ただし、保証金を積む必要がある。

その金額は裁判官が決めることになるが、

請求額の2割から3割。

3割だったら500万円近くの保証金を積む必要がある。

このお金は原則として戻ってくる。

ただ、裁判が終わらないと戻ってこない。

また、仮差押がうまく行くとは限らない。

執行官と事務所に押しかけても、何もなければ空振りに終わる。

 

わたしは、息子の山田さんに仮差押を勧めた。

メリット、デメリットを詳しく説明した。

わたしとしては、是非ともやりたかった。

仮差押をしておかないと、回収の可能性はほとんどなくなるといっていい。

「2、3日考えさせてください」という山田さんから来た返事は、

仮差押はしないという選択だった。

保証金の金額がネックだった。

 

その後、わたしは、この業者を相手に通常の訴訟を提起して、勝訴判決を得た。

強行突破を試みてから、おおよそ6か月が経っていた。

業者の代表取締役も自ら裁判所に来たので、

裁判所で和解に向けた話し合いも行われた。

ところが、業者の和解案は、100万円程度しか払えないという。

それでは明らかに低すぎる。

和解は決裂し、判決となった。

 

判決では勝訴することができたが、

残念ながら、執行はできなかった。

判決が出たころには、業者の事務所は引き払われて

空き室になっていた。

予想したとおりだった。

会社の登記簿に代表取締役の住所が載っている。

しかし、そこを訪ねても、代表取締役が住んでいる様子はなかった。

 

こうして、残念ながら、山田さんの奪われたお金を取り戻すことができなかった。

とっても残念であった。

 

老活弁護士 大 竹 夏 夫

 

※個人情報保護のため若干の修正を加えていますが、実際にあった事案です。