私が、高齢者問題に取り組むようになった「きっかけ」は、
 
ある事件をお引き受けたことでした。
 
 
もう11年も前のことです。
 
 
法律相談所に来られた52歳の女性(仮名:佐藤さん)から、
 
「父親と会えないんです。何とかしてください」
 
という相談がありました。
 
 
私は、「父親と会えないなんで、どういうこと?」
 
と思いました。
 
 
実は虐待を巡って「親に会えない」という相談は少なくないのですが、
 
当時の私は知りませんでした。
 
 
佐藤さんによると、
 
母が4年前に亡くなってから、父はずっと一人暮らしをしていた。
 
ところが、昨年、姉夫婦らが父を姉夫婦の自宅に連れて行ってしまった。
 
それから父と会えなくなった。
 
ということでした。
 
 
「姉のところに電話して父を出してくれと頼んでも、取り次いでくれないです」
 
 
自宅で会うのは難しいそうでした。
 
父親はそのときかなりの認知症(当時は認知症という言葉もありませんでした)
 
のようでした。
 
 
デイサービス(通所介護)を週に2回利用しているということだったので、
 
「お姉さんの自宅ではなく、デイサービスの施設で会えばいいじゃないですか」
 
と尋ねました。
 
 
ところが、佐藤さんは、「施設に行ったのですが、父に会わせてくれないんです。
 
姉から、私と父を会わせるなという指示があるので、会わせられない。というのです」
 
 
私は、びっくりしました。
 
施設には「親に会わせないという権限はないじゃないか!」
 
と思いました。
 
 
今では、私のほうが親に会わせないように手配することが多いのですが
 
(虐待対応のため)、やはり当時はそんなことも知りませんでした。
 
 
父親は、賃貸不動産をいくつも持っていました。
 
そこで、不動産登記簿を調べたところ、最近になって売却したり、姉の夫名義に
 
変わっているものもありました。
 
 
そうです。
 
いわゆる「経済的虐待」です。
 
 
もっとも、当時の私は「高齢者虐待」という言葉も聞いたことがありませんでした。
 
私は、家庭裁判所に申立てをして、父親について成年後見人を選任してもらおう
 
と考えました。
 
 
成年後見人が選任されると、父親の財産はその後見人が管理します。
 
姉夫婦はいくら同居していたとしても、父親の財産を動かせません。
 
とりあえず、姉夫婦が父親の財産をさらに奪うことを防ごうと考えました。
 
 
ところが、佐藤さんが申し立てた成年後見の手続は、途中で止まってしまいました。
 
 
「診断書」がなかったからです。
 
父親が認知症である、認知症の疑いがあるという「診断書」の提出が必要なのです。
 
 
しかし、「診断書」を入手するのは困難です。
 
 
父親はそもそも認知症の検査を受けていませんでした。
 
まずは病院に連れて行く必要があります。
 
ですが、そもそも父親とは会えないし、連絡すらできません。
 
 
私は、ほかの対策をいろいろ考えていたのですが、ほどなく
 
佐藤さんから私に連絡がありました。
 
「父が亡くなった」と。
 
 
病院で亡くなったのですが、お姉さんから佐藤さんに連絡があったのは、
 
亡くなる1時間前だったそうです。
 
 
佐藤さんは父親の死に目にも会えなかったんです。
 
 
佐藤さんのショックは計り知れません。
 
 
私も何も役に立てなかったのがとっても悔しい。
 
 
このときの悔しい気持ちが、高齢者の問題に取り組む原動力になっています。
 
 
このような悲しいことが起きないようにしたい。
 
高齢者の方が明るく、楽しく、生きて行ける社会にしたい。
 
 
そう願いながら、今後も高齢者問題に取り組んでいきます。
 
 
   老活コンサルタント(弁護士) 大 竹 夏 夫