個人の方の借金の整理は、わたくしの事務所でもたくさんやっていましたが、
最近はほとんどありません。

 

しかし、高齢者の方は、いまだに多額の借金を残したまま
というケースが珍しくありません。

 

都内某区に住んでいる田中花子さん(仮名)83歳もその一人。

 

ご主人は5年前に他界され、以後は一人暮らし。
息子が一人いますが、疎遠です。

 

住まいは都営アパートで家賃は安い(5万円)のですが、
クレジット会社3者からの借金が合計100万円以上もあって、
毎月3万円も返済しなければいけません。

 

唯一の収入は年金。2ヶ月で約20万円なので、1か月あたり10万円です。

 

そこから借金3万円を返済して、家賃5万円を支払ってしまうと、
2万円しか残りません。

 

食費、諸雑費、そして今後かかるであろう介護費を賄うことはできません。

 

担当ケアマネジャーの小山良子さん(仮称)から、
田中さんの借金について、わたくしにご相談がありました。

 

小山さん「大竹先生、田中さんが借金、何とかなりませんか?
返済が少しでも遅れると、クレジット会社から電話がかかってくるそうです。

 

ご本人はそれをとっても怖がっていて、
今では毎月きちんと返済しています。

 

ですが、返済すると、は家賃が払えなくなってしまいます。

 

訪問介護(サービス)も増やしたいのですが、
自己負担分の支払いがネックになっています。

 

返済を止めることはできませんか?
いわゆる破産というのはできないのでしょうか?」

 

大竹「田中さんは、資産はないんですよね?」

 

小山さん「そうですね。自宅は賃貸ですし、預金もほとんどありません」

 

大竹「では、放っておきましょう!
返済する必要はありません。
破産をする必要もありません!」

 

小山さん「えっ? 大丈夫なんですか?」

 

大竹「大丈夫です。
もちろん本来なら返済する義務がありますが、
自分の生活を犠牲にしてまで返済に回すことはありませんよ」

 

小山さん「怖い人が取り立てにくるんじゃないですか?」

 

大竹「まず来ません。昔は強面(こわもて)のお兄さんが土足で上がりこむって
イメージがありましたね(笑)。
今はそんな取立てはまったくありません。
取り立てる人の人件費がかさむので採算が合わないからです」

 

小山さん「電化製品や家具を差し押さえられませんか?」

 

大竹「昔はありましたが、最近は中古品はほとんど価値がないので、
差押えはできません。年金の差押えも禁止されているので、
クレジット会社はまず裁判も差押えもしてこないですね」

 

小山さん「破産はできないのですか?」

 

大竹「破産手続をすることもできますが、その費用がもったいない。
法テラス(日本司法支援センター)を使うと、
総額15万円程度でできますが、
田中さんにとっては、それも大きな金額です。
債権者に取られる資産がないわけですから、
破産をする必要はないのです」

 

小山さん「借金を放っておくと、どうなるのですか?」

 

大竹「消費者金融やクレジット会社からの借金は、5年間放置されると
消滅時効によってなくなります。
もし消滅時効にならなかったら、ご本人が亡くなったとき、
相続人が相続を放棄すれば、借金を引き継ぐことはありません」

 

小山さん「なるほど。
ただ、田中さんはクレジット会社から電話がかかってくるのを怖がっています。
電話は止められないでしょうか?」

 

大竹「しばらく放っておけば、そのうち電話もかかってこなくなるのですが・・・
それまで耐えられないですかね。
あとは、着信拒否をするか、できれば電話番号そのものを変えてしまう。
そうすれば電話もかかってきません。

 

それと、多少費用はかかってしまいますが、私が代理人になれば、
ご本人に電話や督促状が届くということは一切なくなります。

 

田中さんの場合、いかに費用をかけないかが重要だと思いますので、
借金はとにかく放っておくのが一番ですね」

 

以上のようなアドバイスにより、
田中さんは返済をストップ。
クレジット会社には返済できない事情を説明しました。
何度か電話がかかってきましたが、
2週間経ったころからは、電話もかからなくなりました。

 

返済を止めたことにより、最低限度ではありますが、
田中さんは生活を立て直すことができました。

 

めでたし、めでたし。

 

ちなみに、クレジット会社は多額の利益を上げており、
しかも、ある程度の借主が返済できなくなることも予定して、
「貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)」を用意しています。
田中さんが返済しなくても、クレジット会社の会計上では織り込み済みなのです。

 

いわゆる借金の整理では、誰でも返済を棚上げするというわけではありません。

 

返済が可能な相談者には、努力して返済することを求めます。
しかし、他方、返済が不可能な相談者には、
返済しない方法(自己破産など)を提案します。

 

その見極めが弁護士の職責だと思ってます。