遺言書が出てきても、遺産が貰えない方は無効だと言いたくなるんですね。
勝手に書かせた、無理矢理書かせた、と。そうしないと遺産が貰えませんから。
私が扱ったケースでは、「死因贈与契約」という、遺言とほぼ同じなんですけど、亡くなったら贈与するという契約が問題になりました。
契約なので、勝手にキャンセルできない点が遺言と違います。
遺言書は遺言を書く人が、内容をいつでも自由に変えられます。
しかし死因贈与契約の方は「契約」なので、遺産を貰う人の承諾がないと変えられないのです。
私が扱ったケースでは、兄が死因贈与契約を母と作って不動産の名義を変更したものを、裁判で無効判決しました。
通常はこのような場合は控訴してくるのですが、この事例では控訴されませんでした。
この死因贈与契約は弁護士が立ち会って作ったものでした。
しかし、その時の母親は介護度は5でした。
介護度は判断能力には必ずしもリンクしていませんが、介護認定を取っていると、生活状況を調査しているので、認知度が明確になりあす。
その結果を調べてみると、当時9月に調査を受けているのに、「3月」とか答えたり、年齢も分からなかったり、挙動不審もあるというひどい状態でした。
また、「長谷川式」という認知度を計る簡易テストも実施していまして、30点満点で20点以下だとちょっと認知症の疑いがあり、10点以下だと間違いない、というものなのですが、それで4点とか5点とか、ほとんど答えられない状態でした。
それで契約書を書かせていたのです。
だいたい認知症の人は「はい」と「いいえ」とかで、言いなりになってしまいます。
それも症状の一つで、力関係も子供の方が強くなってしまいます。
それによって、裁判は勝つ事ができました。
ただ認知症の症状にもいろいろあり、一見普通の方も多いのです。
重度の認知症の方でも、普通に会話ができてしまう場合があります。
例えば「記憶障害型」の認知症は、普通に会話ができます。
でも、ひどい方は、普通に話しているうちに、「あなた誰でしたっけ」となってしまいます。
そして、翌日になると確実に忘れてしまい、毎日の様に電話がかかってきて「久しぶり」と言ってしまうのです。
だから死因贈与契約を結んだ時も、弁護士の説明を聞いて、その時はわかっていたのかもしれません。
ただもう、すぐ忘れてしまう訳です。
だから弁護士も気づかなかった可能性があります。
兄も気づいていたかどうかわかりません。
向こうの弁護士もお兄さんも知らなかった可能性がある。
裁判の時に、その弁護士が出てきたんですけど。
これはもう、しょうがないでしょうという雰囲気でした。
控訴するのが当たり前みたいな世界なんですけど、これはもう無理だと思ったのでしょう。
病院の診断書もありましたし、介護認定で公的な調査も受けている。
逆にそういう物がないと、いくらひどい認知症だったと周りが言っても証明できません。